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Miyajima News

2020年2月2日

人生最高の料理

【令和2年(2020年)2月のコラム(第230号)】 


ウッチーこと内村光良さんと四代目市川猿之助さんの舞台(ネットより)

1.人生最高の料理

もう2か月以上も前になるが、昨年11月の日経新聞日曜版で、歌舞伎の市川猿之助さんが
「人生最高の料理」というコラムを書いておられた。歌舞伎の名役者さんだから、さぞかし
すごい料理のことを書かれているのだろうな・・・と思いながら読んでみると、意外や意外、
学生時代に友人と山形の出羽三山まで山登りに行った折、あやうく遭難しそうになり、
かろうじて下山して泊った宿の朝食で出された「胡麻豆腐」こそが「人生最高の料理」だとのこと。

こういうのを読むと、モノの価値というのは、そのモノ自体はもちろんだけれども、
いかにそのT・P・O(タイミングと場所と状況)が大事かということを実感します。
昔、焼肉の大同門のコマーシャルで
「食べたい時に!食べたいものを!食べたい人と!楽しく食べる!」
というのがありましたが、まさにその通りだなあと思います。

では自分にとって「人生最高の料理」とは何か???

僕が迷わず思い浮かぶのが「知立のうなぎ」である。

今から35年前、私は大学を卒業して愛知県刈谷市に本社のある工作機械メーカに就職した。
入社後しばらくの基礎研修が終わると、新入社員は全員三か月間の現場実習に入る。
私は岡崎市の自動車部品工場に配属となり、一週間交代で昼勤と夜勤を経験するのだが、
これが実にキツイ。特に夜勤は、夜中の二時三時くらいまではなんとかもつのだが、
それを過ぎて夜明けまでの間は睡魔との闘いで、現場の大変さを思い知らされた。
そんな中で唯一の楽しみが「食べること」だった。
新入社員がぜいたく言えたものではないが、会社の寮のご飯もなかなかキビシイものだった。
そこで同期のT君と、「とにかくなんでもいいから美味いもんが食いてーーー!!!」と思い、
休みの日の夕方にふらっと電車に乗って適当な駅で降り、まるで「さまよえる旅人」のように
歩いていると、「おーーー!なんじゃーーー!この美味そうな匂いはーーー!?」という煙が
たなびいてきたのである。
そして急ぎ足で辿り着いたのが知立市にある「井谷家」という鰻屋さんであった。

そこでは入り口の左側で職人さんが炭火を団扇でバタバタとあおぎながら鰻を焼いていたのである。
店に入って待つこと約二、三十分・・・僕たちの目の前にどんぶりの蓋からはみ出るくらいの
大きな鰻の載った鰻丼がやってきた。僕とT君は、しばし言葉を忘れてその鰻丼にかぶりつき、
そして「うんめーー!うんめーーー!」と感動。そしてさらに僕たちを感動させたのは、
どんぶりのご飯の中に、もう一枚鰻の身が入っていたことである。涙して喜んだことは間違いない。

かくして僕たちにとって「人生最高の料理」となった井谷家さんの鰻であるが、ネットの口コミを
見てみると、「タレが甘い」とか「焼き過ぎだ」とかの辛口批評もチラホラ・・・。

でもそんなものはどうでもいいのである。
だれがなんと言おうと、僕とTチャンにとって「人生最高の料理」は「井谷家の鰻丼」なのだから!


鰻が二段になって丸々一匹分使われている「井谷家」さんの鰻丼(上)

└誠一郎のコラム