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Miyajima News

2020年5月31日

BAR

【令和2年(2020年)6月のコラム(第234号)】 


銀座の路地裏にひっそりとあったBAR「ラクダ」

1.BAR

コロナで外出することがほとんどなくなってほぼ2か月。そのため本を読む時間が増えた。
本当は小説が好きなのだが、ちょっとした時間に読むにはエッセイもいい。
特に伊集院静さんのエッセイは人生の味のようなものが感じられて好きだ。
伊集院さんのエッセイには酒場の話もよく出てくる。
実は伊集院さんとは偶然にも銀座の路地裏の小料理屋でお会いしたことがある。
そういうところではこちらから話しかけないのが当然のマナーだが、
店のご主人とお話ししている内に伊集院さんの方から話しかけてきてくださって感激した。
とても感じがいいというか、気さくなのに渋くてカッコよく、いっぺんにファンになってしまった。

その小料理屋のすぐ近くに「ラクダ」という小さなBARがあった。

残念ながら今はもうないが、すごく味のあるマスターがやっておられて、
おそらく一生忘れることはないと思う。

ある日、その店に行こうとして電話番号を調べたのだが、どこにも載っていない。
しかたなく直接行ってみたところ、幸い席はあいていて座ることができた。

「マスター、また今度来るとき電話するから電話番号教えてもらえますか?」

「・・・・。教えてもいいけど、BARなんてとこは、予約して来るもんじゃないよ。」

以来、僕はBARに行くとき、予約することをやめた。

また昔、神戸のJAZZピアニストさんに教えてもらったブランデーベースのカクテルを
そのBAR「ラクダ」でお願いしたら、やはり実に美味かった。
その時マスターは、「これにはヘネシーのVSOPに限るね。XOは上等だけどダメ。
ましてレミーやマーテルはもっと合わない。」とキッパリ。

以来、僕はそのカクテルを頼む時は「ヘネシーVSOPで」と指定することにした。

またある時のマスターの一言。

「BARなんてものは、階段おりたり、エレベータに乗って行くもんじゃないね。
路地からドアをさっと開けて入るのがBARなんだよ。」

以来、僕は基本的には一階にあるBARに入ることにしている。

単純バカと笑われそうだが、僕はこういうこだわりのある店が好きだ。

最後に、忘れられないBARの思い出をもうひとつだけ。

すいぶん昔、御茶ノ水にある小さなホテルに泊まった時のこと。
その日は飲みに行くこともせず、一人で晩ご飯を済ませてすぐにホテルの部屋に入った。
しばらくは本を読んだりしていたのだが、たまには一人でBARで飲むのもいいかと、
昔なにかの雑誌で紹介されていたそのホテルのBARに入った。もちろん一階だ。
会話もなく、一人でしみじみと飲む酒もいいものである。
ついお酒が進んでしまい、何杯目かにバーテンダーさんが出してくれたカクテルが実にうまかった。

「これは何というカクテルですか?」

「Between The Sheets といいます」

「シーツの間で・・・という名前なんですね?」

「はい、つまり・・・もう寝なさいというカクテルです」

「・・・・・・・・・・・。すいません、お勘定お願いします。」

おかげでその夜は、ぐっすりと眠ることができた。やはりBARはいい。
またBARでゆっくり飲める日が来ることを待つばかりである。


御茶ノ水のYホテル、バーNのカウンター (ホテルのホームページより)

※BAR「ラクダ」は、2011年5月のコラムでも紹介させてもらっています。よければご覧ください。

└誠一郎のコラム